ウィンザーチェア物語 キャプテン・クックチェア(コムバック・アームチェア)

キャプテン・クックチェア
(コムバック・アームチェア)



制作年:2010年

キャプテン・クックチェア(コムバック・アーム)について
かの有名な冒険家ジェームズ・クックが最後の世界一周に同伴したことで知られている。1776年の出発の以前に作られていたことになるので、年代が確認される貴重な見本でもある。ゴールドスミス・チェアに比べて脚やアームサポートはそっくりである。またゴールドスミスが円形のシートにボブテールが付いた形をしているのに対してクック・チェアは普通のサドル型で、ボブテールが付いていない。そのため補強のスティックもついていない。

木材:
シート 楡(elm)
アーム、 笠木、 タモ(ash)
スティック、 メープル(maple)
このキャプテン・クックチェアはシート以外は全てゴールドスミスチェアと同じ部品でできている。、ゴールドスミスチェアと同じ3部品をラップジョイント(相欠き接)でつないだアームをカラー(補強材)で補強している。またシートが後ろへ広がることで、ボブテールをなくした分、背の傾きを立てて、8本のスティックを並べるることでスティックバックスタイルができあがっている。ゴールドスミス型の発展形と見ることができる。同じ発展形にボブテールの付いた形もあることから、試行錯誤が続いていたことがうかがえる。いずれにしても、ゴールドスミス型を原型としていることに間違いないであろう。

ヴィクトリア&アルバートミュージャム(V&A)の資料ではゴールドスミスチェアの木材はイングリッシュ・ウィンザーチェアの特徴でもあるニレ(シート)とアッシュ(アームと笠木)であった。その点ではこのキャプテン・クックチェアなど一般に言われているウィンザーチェアの木材に一致している。しかし実測の機会によく良く眺めてみると、分厚く黒に塗られたペンキの上から一部、角のペンキがすり減って木材がはみ出している部分があり、ごく数ミリの隙間ではあったが、そこに現れている木材は、私の見立てではあるがどう見てもアッシュではなかった。シート、アーム、笠木共にニレなのである。権威あるV&Aの資料に異論をとなえることになりそうで、まだ公にはできないが、もしそれが事実であるとして考えられることは、同じ厚みの木材から木取りしたのではないか?ということである。笠木の高さは50ミリあり、ゴールドスミスチェアのシートの厚みは同じ50ミリである。アームは25ミリの厚みなので二枚木取れる。したがって50ミリの厚板を取るためには55~60ミリの厚板が必要であるので、充分に木取れるのである。時代とともに シートの厚みは薄くなっていくが、この変化には製材加工の変化が関係していると考えられる。ゴールドスミスチェアのころの製材はピットソーによる人力であったので、薄く木取るのは難しく、おそらく60ミリから70ミリの厚みが普通ではなかったか?キャプテンクックのころには水力による製材が主流となり、やがて蒸気機関の時代がやってくる。次第に薄く正確に製材することが可能になっていったのではないかと考えられるのである。
※薄くなるといっても、ウィンザーチェアのシートの厚みは40ミリ以上あることに違いはない。
これはあくまで私の個人的見解の域をはみでるものではないことをお断りしておきます。


ヴィクトリア&アルバートミュージャム資料より
鉛筆画
ゴールドスミス型アームチェア
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